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東京高等裁判所 平成10年(ラ)293号 決定

抗告人

佐藤工業株式会社

右代表者代表取締役

吉田弘

右代理人弁護士

髙橋勉

佐藤忠宏

佐々木広行

抗告人

日林観光株式会社

右代表者代表取締役

小林伸彦

抗告人

小林伸彦

右両名代理人弁護士

柴田敏之

本山正人

相手方

東日本銀ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

前波進

右代理人弁護士

髙橋龍彦

主文

一  本件執行抗告をいずれも棄却する。

二  執行抗告費用は、抗告人らの負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨は、別紙各「執行抗告状」に記載のとおりであり、その理由は、別紙「抗告の理由書」及び「執行抗告理由書」に記載のとおりである。

二  一件記録によると、次の事実が認められる。

1  東京都台東区浅草二丁目〈番地略〉所在の家屋番号九三番二の六の建物(以下「本件建物」という。)について、平成八年一二月一一日、債権者を相手方、債務者を抗告人日林観光株式会社、所有者を抗告人小林伸彦こと林東基として不動産競売開始決定がされたところ、相手方は、平成九年一二月一六日、抗告人らを相手方として売却のための保全処分を申し立て、平成一〇年一月一二日、原決定がされた。

2  本件建物の敷地107.31平方メートル(以下「本件土地」という)は平成二年一二月二七日、抗告人小林伸彦が浅草寺から賃料月額一五万三四五〇円、期間三〇年の約定で借り受け、同抗告人が本件土地上に一、二階の床面積各41.40平方メートルの本件建物を所有している。なお、東京地方裁判所は、平成九年一月三〇日、相手方に対し、本件建物所有者が支払わない同月分以降売却許可決定に基づく代金納付の日までの地代(月額二〇万八〇〇〇円)を相手方が抗告人小林伸彦に代わって弁済することを許可する旨の決定をしている。

3  抗告人小林伸彦が代表者である抗告人日林観光株式会社は、平成九年六月一六日、特定建設工事共同企業体代表者抗告人佐藤工業株式会社東京支店に対し、本件土地のうち四五平方メートル(以下「本件転貸部分」という。)を賃料月額一五万円、期間二年間の約定で貸し渡した。

抗告人佐藤工業株式会社は、株式会社奥村組及び日本国土開発株式会社といわゆる共同企業体(JV)を構成し、本件土地前面の通りの地下において都市高速鉄道新線「常磐新線」を敷設する工事(以下「本件工事」という。)を工期(第一期工事)を平成六年八月三〇日から平成一〇年一二月二四日までの予定(当初の平成九年三月二九日完成予定が平成八年一〇月一一日に右のとおり変更された。なお、第二期工事の工期は未定。)で施行している。抗告人佐藤工業株式会社は、本件転貸部分に堅固な鉄骨構造物を設け、その内部に、本件工事に必要な変圧設備である工事用トランス「キュービクル」(縦約三メートル、横約二メートル、高さ約二メートル)二機を設置して、これを使用している。

三  右の事実、特に、本件転貸部分が本件土地に占める面積の割合、本件転貸部分上の構築物の規模、構造等を考慮すると、右のような借地の利用は、借地である本件土地の通常の使用方法に反するものであり、抗告人らの行為は、借地権付き建物である本件建物の価格を著しく減少する行為又はそのおそれのある行為というべきである。

確かに、本件転貸部分の使用は、抗告人らの主張するとおり、公共性の高い本件工事のための一時的な使用であることが窺われるが、本件建物が売却に付される前に右工事ないし転貸借関係が終了する保証はないのであるから、右事情をもって当然に売却のための保全処分発令の要件を欠くということもできない。

四  よって、原決定は相当であり、本件執行抗告は理由がないので、これを棄却することとし、執行抗告費用の負担につき民事執行法二〇条、民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官櫻井登美雄 裁判官加藤謙一 裁判官杉原則彦)

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